クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
誘拐
 かなり長いと感じる時間馬車に揺られ、不安も最高潮に達した所で降りるように言われた。

 相変わらず目隠しはされたままで、周囲の景色を確認する事が出来ないから、ここがどこなのか見当がつかない。

 だけど、人が暮らす生活音が聞こえないし、むせ返るような緑の匂いがする事から、どこか森の中に連れ込まれたのだろうと予想した。

 立ち止まっていると、乱暴に背中を押されて進むように促される。

 こんな手荒な扱いをされた事は、今までにない。
 恐怖に怯えながら、言われた通りに竦む足を動かして前に進む。

 少し歩くと扉の軋む音がした。建物の中に入るようだ。

 それからまた歩いて進んでいく。かなり広い家のようだ。

 見えないけれど、床はなだらかな坂になっているような気がした。

「ここで大人しくしていろ」

 その言葉と共に、私は背中から突き飛ばされて、地面に転がった。
 拘束された手のせいで受身も取れないから、したたかに顔と身体を打ち付けてしまう。

 慣れない痛みに呼吸が苦しくなる。直ぐに動けないでいると、誰かが近付いて来て、私の目と口を覆っていた黒い布と手枷を外した。

 久しぶりに視界が広がる。今いる部屋は窓がないようで、眩しさを感じる事は無かったけれど、視界が上手く定まらない。

 戸惑っていると、私を突き飛ばした男は部屋を出て行き、それから直ぐに今度はヘルマンを連れて来て、私にしたのと同じように付き飛ばした。

「うわっ!」

 ヘルマンも手に枷をされているので、私の様に地面に倒れ、辛そうに呻いた。

「貴族様もこうなると無様だな」

 男は馬鹿にしたようにそう言い残すと、部屋を出て行った。
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