捨てられた町
「帰る場所はないんです。私、この町に来てからずっと彷徨っていたので」


耳は何でもない事のように言ってのけた。


僕とカエルは目を見交わせた。


「ずっとって、ずっとか?」


会話をするつもりのなかった僕だけれど、聞かずにはいられなかった。


「そうです。雨の日はこうして軒下で過ごし、晴れれば公園の水で体を洗って日光浴をするんです」


耳は胸を張ってそう言い切った。


自慢できることじゃないと、当人は気が付いていない様子だ。


カエルが僕をジッと見て来るので、僕は「好きにすれば」と言って1人家の中へと戻って行ったのだった。
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