捨てられた町
「おい、ちょっと!」


僕は慌てて本を追いかけた。


本は足が短いので歩幅が小さく、すぐに追いついてしまった。


「いきなりどうしたんだよ」


僕は両手で本を持ってそう言った。


両手に収まっている本はまるで赤ちゃんのように見えて笑ってしまう。


「ぼ、僕はそんなに面白くないよ。だからやっぱり、本屋に戻るよ」


「今更何言ってるのさ。種はもう傘にあげちゃったよ」


「で、でも! 僕は本当に面白くなくて!」


「お前珍しいな。この町の住人なのに嘘をつくのか」

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