捨てられた町
本を持って家に戻って来ると、青い色をした一本足の傘が家の前にいた。


本屋の傘とは違い、スラリとした白くて綺麗な足をした傘だ。


「誰だ?」


カエルが僕の前へ出て傘へ声をかけた。


傘はその声にビクッと肩を震わせてから振り向いた。


見るとその傘は赤い口紅を付けていて、まつ毛も長い。


女性だということがすぐにわかった。


「あら、はじめまして」


青い傘は丁寧に頭を下げて挨拶をした。


「ここは俺の家だ。なにか用事か?」


「あら、そうでしたの。この家にキラキラ光っている雨があった気がして、来て見たんだけど、見失ってしまったの」
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