捨てられた町
「また来てるな」


不意にそんな声が聞こえて来て僕は閉じていた目を開けた。


顔を巡らせてみると、窓に張り付いているカエルの姿が見えた。


「何が来てるの?」


上半身を起こし、欠伸をかみ殺しながらそう聞いた。


「傘だ」


僕はカエルの隣に立って窓の外を見た。


確かに、あの青い傘がまた家の前にいるのだ。


「雨の形をしたものを探しにきたの?」


「きっとそうだろう。そんなもの家にはないと言ったのに」


カエルはため息交じりにそういって、乱暴にカーテンを閉めた。
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