捨てられた町
出口
家の中は当時の形をそのまま残していて、僕は思わずため息を吐き出した。


広い土間に囲炉裏がある。


その奥は畳の部屋になっていてブラウン管の大きなテレビがドスンッと鎮座している。


「すごい、なにもかも当時のままだ」


僕はそう呟き、家の奥へと足を進めた。


奥の六畳間には仏壇が置かれていて、その壁には亡くなった人の写真が飾られている。


仏間の隣は縁側になっていて、祖父と祖母が仲良くお茶を飲んでいる場面を思い出して胸の奥が熱くなった。


「何を泣きそうな顔をしている?」


後ろからついて来たカエルにそう言われて、僕は慌てて目元をぬぐった。


乾いた感触がしただけだった。
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