捨てられた町
人の影はあっという間に僕との距離を縮め、気が付けば目の前に女性が立っていた。


白い着物を着た色白の華奢な女性。


腰ほどまである長い黒髪が風になびいているのに、その髪は枝のどこにも絡んではいなかった。


丹精な顔立ちをしたその女性に僕は呼吸をすることも忘れてしまっていた。


「こんばんは。こんな場所で人と出会うなんて、とっても珍しいわね」


女性は鈴の音色のような声でそう話しかけて来た。
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