捨てられた町
「新入りか?」


しゃがれた声が聞こえて来て僕は商品からそちらへと視線を移動させた。


店の奥に座っていたのは本だった。


【簡単おいしいおやつ】


と書かれた表紙の中に両目があり、本の中から手足が覗いている。


幼稚園児が書いた本の妖怪のような姿をしたものが、そこに座っていた。


僕は瞬きを繰り返して本を見た。


「なんだよ、人のことジロジロ見て。まずは自己紹介だろ?」


本は不機嫌そうに腕組みをしている。
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