Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[前編]完
「村瀬さん?」
声をかけるとブラウンのショートボブをふわりとなびかせ、彼女は振り返った。
アンニュイな印象の瞳が大きく見開かれる。
「…西崎さん」
「どうしたの?」
確かずいぶん前に面接が終了したはずだけど。
そう訊くと突然の雨で足止めを食っていたらしい。
いまは実家からお兄さんが迎えに来てくれるのを待っているところなんだそうだ。
なんでも家族の集まりがあって19時までに実家に帰らなきゃいけないらしい。
「なんだ…言ってくれれば傘を貸してあげたのに」
ウチにはお客さんが忘れていった置き傘が大量にある。
ほとんどと言っていいほど引き取りに来ないから内実処分に困っていた。
そう言うと村瀬さんは『そういうのこそ無料レンタルにして突然の雨で困っているお客さんにどんどん貸し出したらいいのでは?』と言った。
村瀬さんの言葉になるほどと思わされる。
確かに事務所で眠らせたままで数が嵩んでいくよりは有効活用したほうがいい。
そのほうがお客様にも喜ばれるし、ウチも置き傘の処分に困らない。