Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[前編]完
「――ぅわー……ぅわあ……ひぁあ…すご…」
「…菜月」
「…ぁららら…」
「菜月やめろって」
「慧ちゃんもこっち来て聞いてみなって? 隣のカップルすっっっごい激しいから」
壁に耳を押しつけながら手招きする菜月は、俺の咎める声に一切聞く耳持たない。
…ったく中学生か!っつーの。
最初に聞いた時は不快感をあらわにしていたくせに、菜月はすっかり隣の部屋の秘め事に興味津々になっている。
「調子よくなったんなら帰るぞ」
「えーー」
帰り支度を整える俺に菜月はブーイング。
「…はぁ……ヒトの盗み聞きして何が面白いんだよ」
「え…ヒトのだから面白いんじゃん。こういう機会って滅多にお耳にかかれないし♪」
「…アホらし。俺帰るからお前タクシー拾って帰れ」
「えっ…ちょっ! 待ってよ慧ちゃんっ…」
――ぐいっ
追いすがる菜月に不意をつかれて後ろから腕を引っ張られる。
「!」
あっと思ったときには、踏み出した足は床に着地することなく宙を蹴り上げ、軸足は後ろ向きにたたらを踏んでいた。