Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[前編]完
慧吾≫≫≫初恋の記憶
慧吾≫≫≫初恋の記憶
――パタン…
菜月がぐっすりと寝入っている様子を最後に確認して、静かに寝室のドアを閉めた。
「ずっと妬んでたとか言って」
この匂いは…――優花が好んでいたものだ。
室内に充満するアロマの芳香…。
優花が落ち着くと言っていたフランキンセスの香り。
『――慧ちゃん』
『――慧ちゃん』
『――慧ちゃん』
先に俺のことを“慧ちゃん”って呼び始めたのは、菜月ではなく、菜月の姉の優花‐ユカ‐のほうだった。
『――慧ちゃん。
今日から優花が慧ちゃんのお姉ちゃんになってあげる。
だからもうひとりぼっちじゃないよ。
もう寂しくなんかないからね――』
5歳のとき、両親が離婚して俺は父親の実家に身を寄せた。
親権は父親が持つことになったけど、父親は仕事が忙しいことから、俺を実家の祖父母に預け、自分は別に部屋を借りそこで暮らした。
母親は父親と別れたあと、離婚の原因の一つだった浮気相手との新生活をスタートさせた。
施設にこそ入れられなかったけど、俺はあのとき両親に捨てられたんだと思った。
待てど暮らせど祖父母の家に帰ってこない両親のために流した涙は、いつも優花がその小さな手でやさしく拭い取ってくれた。