マリッジブルーの恋人たち
「浮気したければ、浮気すればいいんだ……。」

「えっ!?」

 ぼそりと呟いたその声は、しっかりと静華の耳に聞こえていた。

 真意を確かめようとするが、振り向いた玲奈は、静華に何も言わせないように、にっこり笑って、"ありがとう、大丈夫だから。"と言うと、空き部屋から出ていった。

 その顔が、何かを決意した表情をしていたため、"これはまずい、厄介なことになった"と思ったのであった。


 一方、取り残された昴は、伊久斗に肩を叩かれるまで呆然としていた。

「俺、今何いった?……玲奈、何ていった?」

「浮気していいのか!好きにすれば?だったけど。」

 伊久斗に冷静に事実を突きつけられ、昴はうなだれた。

 売り言葉に買い言葉とは、まさにこのことだ。

 素直に謝れないから、向こうから折れてくれないかなぁと思って言ってしまった一言だ。

 指輪を返されなければとか、弁当があればとか思ってしまった幼稚な自分が言ってしまった、一滴も思ってない一言だ。

 まさか、あんな風に言い返されるなんて思ってなかったのだ。

 玲奈は、いつだって1度やめてほしいと言うことは、次にすることはない。従順な女性だ。だからこそ、昨夜の出来事も今の出来事も昴は信じられなかった。
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