マリッジブルーの恋人たち
 仕事の後、話をするために指定したのは昔、ふたりでよく出掛けた公園だった。

 昴からはマンションで話そうと言われたが、ここ3ヶ月1度も訪れていない、もしかしたらあの子の痕跡があるかもしれない場所には足を踏み入れたくなかったため、頷くことが出来なかった。

 公園の決まった場所にあるベンチに座りながら、仕事で少し遅くなる昴を待った。

 この公園は、二人の思いでの場所。

 就職したての頃は二人でよくランチをしたり、待ち合わせして帰るのに数えきれないくらい利用した。

 大通りに面しているが隣は交番がある。

 それほど人は多くなく、かといって暗いわけではないから危険な場所でもないため、営業で帰りが遅い昴を待つときも帰らずにこの場所で待ち続けることが出来ていた。

「玲奈っ!!遅くなった、ごめん。」

 息を切らし、汗だくになりながらこちらに走ってきたのは昴だ。

 よほど急いだんだろう。

 セットしてある髪もみだれ、ネクタイをゆるめ、目の前で息を整えている。

 いつもなら額の汗を拭いてあげるのだが、触れることが出来ずに昴にハンカチを渡すと"えっ?"と言う顔のあと、悲しそうな顔をされた。

「汗、拭いたら?」

「……あっ、……あぁ。………ありがとう。」

 昴はハンカチを受け取り汗を拭き、玲奈の隣に腰をおろした。

 
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