あの夏の続きを、今
私はトランペットを吹いているその男子の先輩の方を見た。
その人は眼鏡をかけていて、背が高い────
……………あれ?
あの人って……………もしかして…………?
一瞬、胸が、とくん、と鳴ったような気がしたけれど、気のせいかもしれない。
もう一度、その先輩の顔をよく見てみる。
けれど、遠くからだと、よく分からない。
────人違いかもしれない。
けれど、もしかしたら、ひょっとしたら、あの時の…………
「眼鏡の人」………かもしれない。
それが正しいのかは分からなかったけれど、何故かその時、私の意志が少し、動き始めた。
「吹奏楽部に見学に行こうかな」から、「絶対に吹奏楽部に見学に行こう」に。
あの先輩が奏でている、他の誰よりも魅力的なトランペットの音色────それを、もう一度、いや、何度でも、聴きたいと思ったから。
そして────もしもあの先輩があの時の「眼鏡の人」なら、あの時言えなかったお礼が言えるから。