あの夏の続きを、今
ということで私とリサは、その「魔界アドベンチャー」とやらがある1年A組の教室へとやって来た。
出し物が行われている教室は派手な看板や飾り付けが溢れていて、その周りはたくさんの人たちで賑わっている。
A組の教室の隣にある、私たちのクラス、B組の教室の出し物も、ぱっと見た感じではたくさんの人が来ていて、A組に負けないぐらい賑わっているようだ。
教室の前に置いてある看板に書いてある説明によると、この出し物はRPG風の世界観をイメージして作られた、所々にミニゲームのある迷路らしい。
ミニゲームをクリアしながら進んでいって、魔王を倒し、さらわれたお姫様を助け出すと、景品がもらえる、という内容だ。
係の生徒に案内されて、薄暗い迷路となっている教室に入る。
入り口に入ってすぐ、王子様の衣装を来た男子生徒が現れて、「勇者さま、どうか、私たちの姫を助けてください」というセリフを言いながら近寄ってくる。
次の瞬間、その王子様役の人の表情がほんの一瞬だけ固まった。
いや、実際にはほんの一瞬ではなかったかもしれない。というのも、私はその王子様役の人と目が合ってから、すぐにパッと目を逸らしてしまったからだ。
────その王子様役の人は、ハルトだったのだ。
消え去ってしまったはずの心の中の冷たい雨雲が、再び生まれてくる。
ハルトはそれ以上は何も言葉を発さなかったし、その場から動き出すこともなかった。私も何も言わなかった。
そのまま、係の生徒に案内されて、段ボール製の手作りのドアの向こうに進むと、ハルトの姿は見えなくなった。
心の中の冷たい雨雲は、すぐに消え去って、そのまま忘れ去られた。