あの夏の続きを、今


並んでいる列がどんどん進んでいく。


松本先輩と、元吹奏楽部の3年生の先輩たちの男女混合グループも、私が立っている入り口のあたりに近づいてくる。


こんな猫耳つけた状態で松本先輩に話しかけなきゃいけないなんて、なんだか恥ずかしい……


けれど、早く松本先輩と話したい、そんな気もする。


松本先輩に会えるのは、飛び跳ねたくなるぐらい嬉しいことだし、1ヶ月半ぶりに先輩と話せるのは楽しみだ。


女子の先輩と楽しそうに話している姿を見ると、何故だかあまり良い気分はしないのだけど────


そう思いながら、列の前のほうにいるお客さんへの説明と、猫耳渡しを続ける。


先輩たちには気づいていないふりをしながら。


夏祭りのときと同じ、「無意識の感情」が再び私の心の中に生まれ始めていることも、全く無視しながら。


松本先輩に見られるのだから、後輩らしく、はきはきとした振る舞いでいなきゃ、と潜在意識の中で思いながら。


やがて、列は進んで、松本先輩たちのグループがやって来た。


本当はずっと前から先輩がそこにいることには気づいていたけれど、先輩が来てすぐに気づいたということを知られるのが何故か恥ずかしく思えて、たった今気付いたふりをしながら挨拶をする。


「あ、先輩、…こんにちは!来てくれてありがとうございます!」


何故か思うように動いてくれない口をなんとか動かす。


「あっ、こんにちは、広野さん!」と言ったのは松本先輩。


その声をかき消すように、他の女子の先輩たちが、「あっ、志帆ちゃんだー!」「猫耳似合ってる~!」「可愛い~!」と口々に言い始める。
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