あの夏の続きを、今
私は深呼吸してから、さっきまで他のお客さんにしていたのと同じ、説明をする。
松本先輩に会えた嬉しさが表に現れ出ないよう、隠すように。
「本日は『猫たちの猫たちによる猫たちのための猫カフェ』にお越しいただきありがとうございます。
このカフェでは、お客さんも猫になった気分で楽しんでいただきたい、ということで、お客さんにもこの猫耳をつけて頂くことになっています」
そう言ってから、私は先輩たちのグループに猫耳のカチューシャを渡す。
女子の先輩たちにひとつずつ順番に渡していってから、松本先輩にも手渡す。
その時、私が猫耳を渡す手と、先輩が受け取る手が一瞬だけ触れた。
「────あっ」
ほんの少しだけ触れた温かく柔らかい手に驚き、思わず声が出てしまう。
「どうしたの?」と、女子の先輩がすかさず聞いてきたが、「いえ、なんでもないです」と言って誤魔化した。
胸の鼓動がほんの少しだけ早まったような気がした。一方で、松本先輩は何事もなかったかのように涼しい顔をしている。
早速猫耳をつける先輩たち。
松本先輩は犬好きだけど、猫耳もよく似合っている。
何か、声をかけたい。そう思ったけれど、何故か、どんなことを言えばいいのか分からなくなってしまって、やっとのことで言葉を喉から押し出す。
「先輩……とっても似合ってます!可愛いですよ」
そう言うと先輩は、「いや~、広野さんこそ、よく似合ってるじゃん」と照れくさそうに言う。
その時────
私の胸は、再び、ドクン、と一瞬だけ高鳴ったような気がした。
気のせい?いや、気のせいではないかもしれない────