あの夏の続きを、今
中で接客をしているクラスメイトの1人がドアの隙間から顔を出し、「席空いたよー」と言ってきたので、私は先輩たちを教室の中に案内する。
松本先輩は「じゃ、また後で、吹奏楽のステージ見に行くから、頑張って!」と、あの明るく優しい笑顔で言って、教室の中へ入っていった。
先輩の背中が見えなくなってから、緊張が一気に緩んで、思わずふうっ、とため息が出る。
────その時だった。
私は────気づいてしまったのだ。
何かが、ドクン、ドクン、ドクン、と強く鳴っていることに。
それは、紛れもなく、私自身の胸の鼓動。
たったこれだけの何気ない会話を交わしただけなのに、私の胸の鼓動はどんどん速くなる。
「無意識の感情」が、私の心を強く揺さぶっている。
今すぐにでも、殻を突き破って外に現れそうなほどに、それは私の心を強く締め付けている。
これは……………
この感情は………………
もしかすると………………
この瞬間になってようやく私は、見て見ぬふりをして来た「無意識の感情」に、まともに視線を向けることができるようになったのだ。
────あなたは一体何?どうしてここにいるの?
分厚い扉の向こうに隠れ、隙間からほんの少しだけ顔を覗かせている「無意識の感情」に、心の中で語りかける。
────本当は、もうとっくに気づいているくせに。
「無意識の感情」はそう答えたような気がした。
────そりゃそうだよ。だって、「無意識の感情」も、他と切り離すことのできない、私の心の一部なんだから。
でも…………
私は落ち着かない心を必死に落ち着かせようと、深呼吸を繰り返す。
だって…………
そんなこと、あるはずないもの。
そんなこと、あるはずないもの。
まさか私にそんなこと、あるわけないんだもの────
まさか、私が松本先輩のことを…………?
………そんなの、絶対にありえない。
私は「無意識の感情」が二度と現れることのないように、心の奥底にぐっと押し込む。