あの夏の続きを、今


それから私は、再び生まれてきたモヤモヤした気持ちを抱えたまま、椅子や楽器を片付ける。


片付けもほとんど終わって、ほとんどの部員が手ぶらで音楽室に戻り始めたとき、「トランペットパートの人、ちょっと来てー」という声が聞こえた。


────松本先輩の声だ。


ドクンッ。また、一瞬だけ心臓が跳ねる。


振り返ると、そこには3本のペットボトルを持った松本先輩がいた。


────先輩だ!


思わず嬉しくなって、私は松本先輩のもとへと駆け寄る。


カリンとアカリ先輩も後に続いて集まってくる。


「トランペットのみんな、お疲れ様!ささやかだけど、僕からパートのみんなに差し入れを用意したから、良かったら後で飲んでね」


そう言って松本先輩は、パートメンバーに1人1本ずつ、レモンジュースのペットボトルを差し出す。


今まで見てきたのと同じ、その優しい笑顔に、思わず胸が締め付けられる。


「わあっ、ありがとうございます!」


そう言って私は、松本先輩の手からペットボトルを受け取る。


その時、私の指先が僅かに、先輩の手に触れた。


冷たいペットボトルを持つ私の手の中に、ほんの少しだけ伝わってくる温かさ。


─────前にも、この気持ちを感じたことがある。


二人きりで朝練をした帰り、傘を貸してもらったあの日と同じだ─────


胸の鼓動が一気に早まる。


ほんの少し意識するだけで、私が今までの私ではいられなくなっていくのが、はっきりと分かった。
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