あの夏の続きを、今


私は給食を食べ終えた後すぐに、その仕事のため給食センターへ向かう。


おかずの入れ物と蓋を返しに来たクラスをチェックするのが、私の仕事。


しばらくすると、たくさんの給食当番の生徒たちがやって来て、食器や入れ物を返しに来る。


1-D、3-C、2-A………私は入れ物が返されたクラスをどんどんチェックしていく。


────その時だった。


遠くのほうから、見慣れた人がこちらに近づいてくるのが分かった。


ドクンッ────


私の心臓が飛び跳ねる。


間違いない。眼鏡をかけていて、背は高くすらっとしていて、「3-D」と大きくはっきり書かれたおかずの入れ物を持っている────


────松本先輩だ。


再び殻を破って表れ出ようとする感情を、ぐっと抑えつける。


────“そんなことは絶対ないと思うよ!”


カリンの言葉が刺さった跡が再び、ずきん、と痛む。


やがて、松本先輩は私の目の前までやってきた。


とりあえず、好きとか好きじゃないとか、それ以前に、先輩は先輩なんだから、とりあえず挨拶はしないと。


「あ…あの………先輩……こんにちは!」


苦しみに締め付けられる心を抑えつけて、やっとの思いで言葉を絞り出す。


松本先輩はそんな私の心の内など全く知らない様子で、部活にいた頃と変わらない優しげな表情で「こんにちはー」と返してくれた。


そして、入れ物を返すと、そのまま帰っていった。


私はその背中を見送る。


胸の奥が苦しい。


こんにちはのたった5文字を言うためだけに、こんなにも苦しい思いをしなければいけないなんて。


少し前までは考えられなかったことだ。
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