あの夏の続きを、今
基礎練習が終わったら、今日は、卒業式で演奏する曲を練習する。
入場曲は「威風堂々」で、退場曲は「フレンズ・フォー・ライフ」。
私はしっかりと息を吸って、「フレンズ・フォー・ライフ」を吹き始める。
先輩はもうとっくに学校を出ているだろう。それでも、私の中にある、「届けたい」という確固たる思いは消えない。
この曲は、卒業式の退場曲にぴったりな、とても感動する曲。
体力がかなり必要で、吹いていると息が苦しくなるけど、1フレーズ吹き終えるごとに、心の中の想いが音となって、一面に広がっていくような感じがする。
私の奏でる音が、辺り一帯に響き渡る。
その音には、隠すことのできない「本当の気持ち」がしっかりと現れているのが、私にははっきりと分かった。
その音が運んだ、私の中にある「本当の気持ち」と、もう一度真正面から向き合う。
私は────この音を届けたいんだ。
胸の中にある、この想いを乗せて。
私が誰よりも強く、想っている人へ。
私にとってこの音を誰よりも届けたい相手。
それが、松本先輩なんだ────
だからこそ、こうしていつも練習に励んでいられるんだ。
この苦しいフレーズも、響かせることができるんだ────
誰が何と言おうと、どんなに困難であろうと、この気持ちはもう隠すことはできないんだ。
私は「本当の気持ち」を、しっかりと受け入れる。
そして、全ての想いをそこに込めて、もう一度、長い長いそのフレーズを吹く。
私の心を押さえつけていた重たい扉も、今はすっかり開いてしまっている。
そこから、今まで隠してきた想いが、とめどなく溢れ出してくるのを感じる。
それと同時に、記憶の中に眠っていた、先輩のいた日々が蘇る。
少し緊張した、一対一での練習。
相合傘をしたあの日に知った、優しさと温かい気持ち。
本番の時の先輩の、凜とした背中。
先輩が女子の先輩と一緒にいるのを見ると感じた、モヤモヤした気持ち。
引退式の時に見た、夕陽に照らされた笑顔。
あの時話しかけられた時の、心臓が跳ねるほどの嬉しさ────
これが、本当の気持ちなんだ。
私の、素直な気持ちなんだ。
────好きなんだ。
先輩へのこの想いは、もう、止められないんだ────