あの夏の続きを、今
あの時の「眼鏡の人」って、トランペットの先輩だったんだ。
こんな所でまた会うなんて、思いもしなかった。
でも、これで、お礼が言える。
「あの……この間は、ありがとうございました」
「いやいや、そんな、とんでもない、…またこんなとこで会うなんて、運命って感じしない?」
「眼鏡の人」は冗談っぽくそう言って笑う。
その穏やかで落ち着いた声と、優しげな眼差しに、胸の内が少し温かくなるような感覚を覚える。
「え~、松本くん、後輩ちゃんをナンパする気~?」
「松本くん、意外と大胆なんだね~!ヒューヒュー」
周りの女子の先輩たちがそう言ってからかうと、「眼鏡の人」は「みんなー、勝手な解釈はやめましょうねー」と言って笑う。
女子の先輩の1人が、「吹奏楽部入ろうと思ってるの?」と聞いてきた。
「入ろうかな、って思ってます。合唱部や軽音部とも迷ってたんですけど、さっきのアンサンブル聞いて、吹奏楽がいいなって…」
「わーーー!みんなー、新入部員候補が登場だよー!!」
周りの先輩たちが、それにつられて歓喜の声を上げる。
「ねえねえ、楽器体験していかない?いろんな楽器があるよ~」
「松本くん、トランペット吹かせてあげなよ!」
「この子、トランペットに向いてそうな感じするし!」
「早く早く、トランペット~」
先輩たちが次々にそんなことを言うので、私が最初に体験する楽器はトランペットと、半ば強制的に決められてしまった。