あの夏の続きを、今
先輩たちに言われるがまま、私は「眼鏡の人」────「松本くん」と呼ばれたその先輩のもとに行く。
「眼鏡の人」の名字って、「松本」なんだ。
学ランに付けられた名札には、確かに「松本」と書かれている。
そういえば、あの入学式の日、名札の「Ⅲ」のバッジはしっかり見ていたのに、肝心の名字を見ていなかったことを思い出した。
「じゃあ、早速吹いてみようか」
そう言って先輩は、何かを手渡した。
「これは、マウスピースって言って、トランペットの吹き口なんだけど、これに唇を当てて、振動させて音を出すんだよ」
そう言うと先輩は、自分の持っているマウスピースを吹いて、プゥーっ、と音を出す。
私も同じように、先輩に渡されたマウスピースを口に当てて、息を入れてみる。
スゥーーっ。
………全然音が出ない。
「マウスピースと唇の間に隙間を作らないようにするのがコツだよ」
そう言う先輩の顔は、やっぱり中学校に来る前から見覚えがある気がした。
もう一度、マウスピースを吹いてみる。
スー、スゥーっ、…………プゥーーーーっ。
「あ、音出た!すごい!」
気づけば、たくさんの先輩たちが私を見守っていて、私が音を出した瞬間には拍手が起こった。