あの夏の続きを、今
部活ではずっと、卒業式で演奏する「威風堂々」「フレンズ・フォー・ライフ」の練習をしている。
トランペットを吹けば吹くほど、松本先輩への想いは募っていく。
────先輩に会いたい。
────先輩にこの音を届けたい。
────先輩みたいな音を出せるようになりたい。
────そして、いつかは先輩にこの想いを伝えたい……………
松本先輩が卒業するまでに想いを伝えるなんて、100%不可能なのは分かっている。
校内で先輩の姿を見かけることですら困難なのに、ましてや想いを伝えるなんて────
それでも、この気持ちは止められない。
心に浮かんでくるのは、かつて松本先輩と一緒に過ごした日々の思い出ばかり。
いつも、松本先輩のことを思い出しては、胸がきゅっと苦しくなる。
あの華やかな音色を、もう一度聴くことができたら。
あの優しい笑顔を、もう一度見ることができたら。
……それももう叶わぬ願い。
それでもやっぱり、私は松本先輩が好きなんだ────
「フレンズ・フォー・ライフ」の長いフレーズで、息が続かなくて苦しくなっても、先輩のことを想うだけで、どこからか力が湧いてくる気がした。
この音を先輩に聴かせるんだ。そう思うだけで、音色がずいぶん変わってくるような気がした。
この気持ちを乗せた音は、今は誰にも届くことなく、虚しく空へと響くだけ。
伝えることのできない想いがどんどん積もっていって、ただでさえ悲しみで弱っている心をさらに苦しめた。