あの夏の続きを、今
どれだけ先輩のことを想っても、刻一刻と時は過ぎ、別れの時は確実に迫ってきていた。
なのに、唯一先輩と少しだけ話すことのできる時間である給食委員の仕事の時になると、変に意識してしまって、挨拶以上のことは何もできずにいた。
────そして、気づけば、もう3月になっていた。
今はテスト週間だが、例によって自主参加型の朝練ならできるため、私は今日も朝練のために音楽室に来ている。
学年末テストが終われば、その次の次の日が卒業式。
もう、松本先輩がこの学校にいる時間も、本当にあと僅かなんだ────
そう思っただけで、涙が出てきそうだ。
私は音楽室の中の自分の椅子に座って、「フレンズ・フォー・ライフ」の練習をする。
いかにも卒業式、別れの時って感じの曲だ。
私が吹くのは3rdで、主旋律はなく、1stの前田先輩や2ndのカリンに比べたら目立たない。
それでも楽譜に書かれている一つ一つのフレーズは、しっかりと心を込めて豊かな音で吹かないと活きてこない。
息をしっかり吸って、お腹からしっかり出して……
窓の向こうに見えるあの空の向こうまで、届くように。
松本先輩の心まで、届くように────
思えば、入学式の日、松本先輩と初めて出会ったあの瞬間から、もう私は先輩のことが気になっていたのかもしれない。
だからこそ、部活体験の時に、先輩の吹くトランペットの音を魅力的に感じたのかもしれない。
そうして私はトランペットの担当になり、今もこうして吹いている。
松本先輩がいなかったら、トランペットの楽しさも魅力も知らないままだっただろうし、こうやって先輩を目指して努力しよう、より良い音を目指そう、という気持ちも起こらなかったはずだ。
そんな、私にとって大切な存在である松本先輩も、もうすぐここからいなくなってしまう。
本当はずっと、そばにいたいのに。
でも、私には、どうすることもできない────