あの夏の続きを、今
「志帆ちゃん、ちょっといいかな」
後ろからアカリ先輩の声がして、私は吹くのを中断して振り返った。
アカリ先輩の手には1枚の色紙が握られている。
「これ、卒業式の前の日に松本先輩に渡す寄せ書きなんだけど、部員一人一人に書いてもらおうと思ってるから、志帆ちゃんもこれ書いて、今日中に他の部員に回してくれる?」
アカリ先輩はそう言って色紙を差し出した。
「ここの真ん中の3つのピンクの枠が、トランペットパートの人用のスペースだから、志帆ちゃんはこのピンクの枠の中に書いてね」
「わかりました」
私は受け取った色紙を眺めた。
色紙には部員数と同じ数だけ円が描かれていて、一番上には大きく派手な字で「松本先輩へ」と書かれている。
この円の中に、一人一人がメッセージを書くようになっているようだ。
無計画に円を描いていってスペースが余ってしまったのか、不自然な位置に、スペースを埋めるように犬の絵が描かれていたり、トランペットの柄のシールが貼られていたりする。
色紙の中央に、他の青い円よりも明らかに大きいピンクの円が3つ描かれていて、そのうちの1つにはアカリ先輩からのメッセージが既に書かれている。アカリ先輩の言う「トランペットパートの人用のスペース」だ。
私は一旦色紙を譜面台に置き、どんなメッセージを書こうかな、と考えつつ、練習を再開した。
そのまま練習を続けていると、いつの間にか朝練の時間も終わりに近づいていたので、私は楽器やら譜面台やらを片付ける。
音楽室を出ようとしたとき、ホワイトボードに大量に貼ってある、様々な学校や団体の演奏会のお知らせのチラシが目に留まった。
大量の演奏会のお知らせの中には、1月とか2月とか、既に日付は過ぎてしまっているのにまだ貼ってある古いものもたくさんある。
その中で見つけた一番古い日付が、去年の12月の下旬だった。
12月の演奏会のがまだ貼ってあるのか、と思いながら、そのチラシを見ると、そこには「東神高等学校吹奏楽部 クリスマスコンサート」と書かれていた。
────東神高校だ……!
そういえば、引退式の日に聞いた時、松本先輩は、東神高校を受けるって言ってたから────
その時、私の中にふと、ある考えが浮かんだ。