あの夏の続きを、今
────その日の昼休み。
今日は、給食委員の仕事で松本先輩に会える最後の日。
私は、今朝思いついた考えを実行するため、緊張で荒くなる呼吸を整えつつ、給食センターに向かう。
その考えとは────
松本先輩に、高校でも吹奏楽を続けるのかどうかを聞く、というものだ。
先輩が高校でも吹奏楽を続けるのなら、高校の吹奏楽部の定期演奏会に行ったりして、また先輩のトランペットの音を聴くことができるかもしれない。
それに、もし私が東神高校に進学して、吹奏楽部に入れば、また一緒にトランペットを吹けるかもしれない。
僅かな希望があるなら、それを確かめておきたい。そう思ったのだ。
給食センターに人がどんどんやって来る。
私はいつものようにおかずの入れ物を返しに来たクラスをチェックしながら、松本先輩が来るのを待つ。
やがて、遠くの方に、おかずの入れ物を持った松本先輩の姿が見えた。
胸が、ドクン、と大きく鳴る。
────最後のチャンスだ。
私は深呼吸しながら、先輩がこちらに来るのを待つ。
何としてでも、ここで聞いておかなければ。
高鳴る胸を押さえているうちに、先輩は目の前までやって来た────
「……先輩っ、こんにちは!」
「こんにちはー」
私は思い切って、先輩に質問する。
「あの、………先輩は、高校でも吹奏楽続けるんですか?」
すると、松本先輩は、少し微笑んで、こう言った。
「うん、続けようと思ってるよ」
………やった!!
「そうなんですね!ありがとうございます」
そのまま去っていく先輩の背中を見つめながら、私は心の中でガッツポーズした。
────良かった!また、先輩の明るく華やかなトランペットの音が聴ける!
これで、希望を持つことができた。
先輩が卒業してしまっても、きっとまたいつか、会える日が来るはず。
その時がいつになるかは分からないけれど、お互いが吹奏楽を続けていれば、必ずいつかチャンスは巡ってくるはず。
────決めた。私、絶対に東神高校に行こう。
自分で言うのも何だけど勉強は得意だし、頑張れば東神高校にだってきっと受かれるはずだ。
先輩も私も東神高校に受かれば、また一緒に演奏できるはず─────
そう、心の中で信じていた。