あの夏の続きを、今
仕事を終えて教室に戻ってきてから、私は机の中にしまっていた色紙を取り出した。
例の、松本先輩への寄せ書きの色紙だ。
朝、これを受け取ってからずっと、ここに何を書こうか悩み続けていた。
ありきたりな言葉では、先輩が私にとって大切で特別な存在である、ということは少しも伝わらない。
だからといって、読んだだけで「この人は松本先輩のことが好きだ」と分かってしまいそうなことを書くわけにもいかない。
どうしようかとあれこれ考えてから、ペンを手に取り、精一杯の想いを込めた丁寧な字で、ピンクの円の中にメッセージを書き始めた。
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短い間でしたが、大変お世話になりました。
松本先輩のトランペットはとても上手くて、私もあんな風になりたいな、とずっと思いながら練習していました。
先輩みたいな音を目指して、これからも頑張っていきます!
高校でも頑張ってください! 広野 志帆
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書き終えたメッセージを何度も何度も読み返して、問題ないことを確認してから、私は色紙を同じクラスの他の吹奏楽部員に回した。
私はなんとなく窓の外を眺めてみる。
そこに見える中央棟の向こうには、温かな日差しに照らされた雲の浮かぶ空がただ広がっているだけだった。
まだまだ寒いけれど、それでも3月になってから、ほんの少しだけ春が近づいてくるのが感じられるようになったな、と思う。
「もう、ほんとに、お別れの時かぁ……」
そんなことを独り呟いて、ため息をついた。