あの夏の続きを、今
自転車置き場に自転車を停めて、昇降口へと向かおうとしている松本先輩に、まずアカリ先輩が駆け寄り、寄せ書きを差し出す。
私とカリンも、それについて行く。
アカリ先輩の「せーの」の合図で、3人一斉に言う。
「「「松本先輩、卒業おめでとうございます!!!」」」
松本先輩は驚いた表情をしていたが、すぐにいつもの優しい笑顔になった。
「え、これ、僕に………?みんな、ありがとうね!とっても嬉しい!」
そう言って、満面の笑みでアカリ先輩から寄せ書きを受け取った。
頬に浮かぶえくぼ。
その笑顔に、胸が熱くなる。
やっぱり、松本先輩の笑顔は、私にとって何よりも特別だ。
まだ肌寒い3月の朝の空気の中で、松本先輩の周りにだけ満開の桜が咲き誇っている────そんな風にも感じられる。
「今年も、卒業式で『フレンズ・フォー・ライフ』やるのかな?」という松本先輩の言葉に、「はい、やります」とアカリ先輩が答える。
「あの曲、とってもきついよね」と松本先輩が言ったので、私は「苦しいですけど、頑張ります」と答えた。
少しでも、何か、言葉を言っておきたかったから。
松本先輩は「頑張ってな!演奏、楽しみにしてるから!それじゃあね」と笑顔で言ってから、寄せ書きを片手に、昇降口の方へと去っていった。
────これが、もしかしたら、松本先輩と交わす最後の言葉だったかもしれない……
締め付けられるように苦しくなる胸を押さえながら、私はアカリ先輩やカリンと共に、音楽室へと戻っていった。