あの夏の続きを、今
別棟の階段を一番上まで上ると、案の定、音楽室の鍵は閉まっていた。
鍵が閉まっている時は、最初に来た人が職員室に鍵を取りに行ってから開ける決まりになっているので、私は職員室に行く。
別棟から職員室のある東棟まではかなりの距離があるが、その距離を往復して戻ってきても、まだ他の部員の姿は見えなかった。
鍵を鍵穴に差して回すと、静かな空間に、かちゃっ、と音が響く。
扉を開けて、まだ誰も来ていない静かな広い音楽室へと足を踏み入れる。
冷たく張り詰めた空気を温めるため、ストーブの電源をつけてから、楽器を準備する。
暖かな朝日の差し込む音楽室には、私の立てる物音だけが響く。
少しずつ、日は昇っていき、この部屋を、そして学校全体を暖めていく。
氷のように冷たいトランペットに息を吹き込んで温めながら、窓の外を眺める。
何か特別なものが見えるわけでもないけれど、少しでも明るい方を向いておかないと、寂しさのあまり涙が出てきそうな気がしたから。
窓から見える、1年生の自転車置き場に、一人二人と吹奏楽部員の姿が見え始めた。
私はチューナーを窓辺に置いて、チューニングをする。
最後の日だ。本当に、最後の日だ。
中学生のうちに、松本先輩に私の音を届けられる、最後の日だ。
もう、本当に、お別れになってしまうんだ。
私は涙をぐっと堪える。
今の私にできることはただ一つ。
最後の演奏で、最高の演奏を先輩に届けることだけだ。
先輩にとっての最高の後輩として、先輩の心に残り続けること。それが、私にできる最後のことであり、最大のことだ。