あの夏の続きを、今
やがて、部員全員が音楽室に集合した後、部員たちは楽器を体育館に移動させ、軽くリハーサルをしてから、体育館の後ろの隅の方にある演奏スペースで待機する。
冷たい空気の中でかじかんだ手を息で温めながら、私は時計の針が進んでいくのを眺める。
椅子が整然と並べられた体育館に、次から次へと保護者や在校生たちが入って、椅子に座っていく。
別れの時まで残された時間も、あとわずか────
式の始まる時間がいよいよ近づいてくると、人の動きも落ち着いてきて、流れているBGMとも相まって、体育館全体が厳粛な空気に包まれる。
そして、いよいよ、卒業生の入場だ。
────BGMが止まる。
『卒業生が入場します。拍手でお迎えください』
それと同時に、西島先生が指揮を始める。
入場曲、「威風堂々」の演奏だ。
気持ちを込めて表現するようなところはないけれど、演奏者の技術が如実に表れる曲だから、きっちりと音程とリズムを守って吹かなければいけない。
卒業生が、A組から順番に体育館に入ってくる。
松本先輩はD組の最後の方だ。
曲が終わりに近づいてきたあたりで、私は視線を卒業生の列の方へと向ける。
次々に入って来るその列の中に、私は確かに松本先輩の背中を見つけた。
届けないと。
大切な人に、最後の演奏を、最高の演奏を、届けないと。