あの夏の続きを、今
それから、長い長い卒業式が行われていく。
────このまま時間が止まってしまえばいいのに。
────このまま私も松本先輩も、永遠に中学生のままだったらいいのに。
────このままずっと、松本先輩と同じ空間にいられたらいいのに……………
決して叶うことのない願いを抱きながら、手元にある銀色に冷たく輝くトランペットをぎゅっと握る。
静かな体育館の空気の中に、校長先生の式辞を読む声だけが厳かに響いている。
時の流れというのは、静かで、そして残酷だ。
体育館の前の壁に貼られた式次第の通りに、全てはゆっくりと、でも決して止まることなく進んでいく。
何一つとして、私の願いを、私の悲しみを、聞き入れてくれるものはない。
そして、式は進んでいき、卒業生の歌になった。
卒業生全員による、「3月9日」の合唱。
先輩達の声が生み出す美しいハーモニーが、暖かい光となって体育館を満たす。
その光の欠片は、私の心の中にも染み入ってきた。
歌詞の一つ一つの言葉が、胸の内に秘めた想いと重なって、涙を誘う。
私の座っている場所からはちょうど、松本先輩の顔が見える。
松本先輩が、どんな気持ちでこの「3月9日」を歌っているのかは分からない。
けれど、私がこんなにも松本先輩のことを想っているのだから、松本先輩にとっても、特別な存在でありたい────
そう願いながら、合唱を聴いた。
思わず涙が溢れ出してしまいそうな、温かい歌声だった。