あの夏の続きを、今
そして────
『卒業生が退場します。拍手でお送りください』
いよいよだ。私がずっと、想いを込めて練習してきた、退場曲、「フレンズ・フォー・ライフ」。
冷たく冷えた体育館の空気の中に、西島先生の指揮に合わせ、温かく優しい木管楽器の和音がそっと響く。
とうとう、別れを受け入れなければいけない時が来てしまったんだな、と実感するような曲。
ドラムやティンパニも加わり、だんだんと音が厚みを増していく。
私は精一杯息を吸って、精一杯の想いを込めて、滑らかなオブリガートを吹く。
松本先輩、どうか、聴いていてください。
先輩のおかげで、今もこうして創り出すことができている、私のトランペットの音を。
一つ一つの音に込めた、先輩への想いを。
短い曲なので、卒業生が全員退場するまでの間に、同じ曲を2回繰り返して吹くことになっている。
曲が2回目に入ったところで、私は視線を西島先生の指揮棒から、退場していく卒業生の列へと移す。
今、体育館の後ろの出口から出ていっているのは、B組の最後の方。
曲が進み、列が進んでいくにつれ、私は意識して視線を卒業生の方に向けるようにする。
トランペットのメインメロディーが終わった辺りで、D組の先輩たちの姿が近くに見え始めた。
もうすぐ、松本先輩が来る────
ちょうど、曲が転調してクライマックスへと向かう辺りで、D組の最後の方の、松本先輩の姿が見えた。
届け、私の音に込めた想い────
松本先輩の心まで────
いよいよクライマックス。松本先輩の姿が、だんだんと遠ざかっていく。
それを惜しむように、引き止めるように、振り向かせようとするように、私は胸の中に込み上げてくる精一杯の想いを、音に乗せて響かせる。
その音の向かう先にある松本先輩の背中は、やがて、ゆっくりと扉の向こうへと消えていった。
私の最後の音の余韻が、体育館の天井へと吸い込まれていった。