あの夏の続きを、今
いよいよだ。最後の時は、一刻一刻と近づいている。
胸がドキドキと高鳴り始める。
3年生の先輩たちが、次から次へと昇降口から出てきて、この花道を通って、運動場のほうへと出ていく。
中には、同じ部活の後輩と思われる在校生と話している人もいる。
在校生の中には、「〇〇せんぱ〜い!」と言いながら、手を振っている人もいる。
私も、ああやって、松本先輩に手を振るんだ。
最高の笑顔で、手を振るんだ。
やがて、スピーカーから流れている「3月9日」が最後のサビへと向かおうとする頃、昇降口から松本先輩と何人かの先輩が出てきた。
────来た!!
私は高鳴る胸を押さえながら、心の準備をする。
いよいよだ。
最後は最高の笑顔で、終わるんだ。
松本先輩たちはどんどん歩いて、私のいる辺りへと近づいてくる。
先輩との距離が近づけば近づくほど、胸の鼓動もどんどん速くなっていく。
そして、私の前を、通り過ぎようとする────
今だっ!
私は少しだけ身を乗り出し、大切なその人いる方へ、手を伸ばす。
だが────
「────松本せんぱ…………」
松本先輩は、私の方には目もくれず、一緒にいる他の先輩たちと楽しそうに話しながら、そのまま通り過ぎてしまったのだ。
「せんぱ…………い……………?」
一瞬、今起こった出来事が信じられず、私は固まってしまった。
確かにそこには、松本先輩のいつもの笑顔があった。
けれどそれは、私の見たかった、私に向けられた笑顔ではなかった。
先輩に向かって振ろうとして挙げかけた手から力が抜け、ゆっくりと下りていく。
手だけでない。全身から、力が、魂が、抜けていく。
それと同時に、私の視界が込み上げてくる涙で一気に歪んでいく。
「……………っ!!!」
気がつくと、私は身体の向きを180度変えて、花道を飛び出して、誰もいない方向へと一気に走り出していた。
「志帆!?どうしたの!?志帆ーーー!!」
後ろの方でリサが叫んでいるのが聞こえたが、私は構わず走り続けた。