あの夏の続きを、今
走って、走って、走り続けた。
一歩一歩、前へと進むたび、両方の目から涙が零れ落ちていく。
どうして走っているのか、自分自身でもよく分からなかった。
どこに向かって走ろうとか、そういう明確な意志はなかった。
ただ、このままだと涙を抑えることができない。だから、一刻も速く、人目につかない所に行きたい、という思いはあった。
走って走って、気がつくと、私は別棟の階段を全力で上っていた。
音楽室の扉の鍵は、誰が閉め忘れたのか分からないが、開けっぱなしになっていたので、私はそのまま音楽室へと駆け込む。
誰もいない音楽室で、私は力が抜けたように、床に倒れ込んだ。
目からは大粒の涙がぼろぼろと溢れ出して、私の顔を濡らしている。
ここなら誰にも見られないのをいいことに、私はこれまでにないほど思いっきり大声を上げて、わんわん泣き続けた。
最後ぐらいは、笑って終わりたかったのに。
松本先輩は、全く気づいてはくれなかった。
笑うどころか、私はこんなにも涙を流している。
────どうして………
どうして、こんなにも先輩を想っているのに………
ここで先輩と会える、最後の日なのに………!
「3月9日」は一度曲が終わっても、また繰り返し流れ続けていた。
曲は学校中のスピーカーから流しているらしく、この音楽室の天井のスピーカーからも「3月9日」が聞こえてくる。
しばらくの間、私は両手で顔を覆って泣き続けていたが、だんだんと落ち着いてくると、私はハンカチで涙を拭ってから、ゆっくりと立ち上がった。
そして、西側の窓から、外を眺めた。
ここからは運動場がよく見える。
視界の隅には花道の端っこも見えて、そこから次々に3年生の先輩たちが出てきて、運動場の方へと向かっている。
運動場の真ん中には既に花道から出てきた先輩たちがたくさんいて、話したり、騒いだり、写真を撮ったりしている。