あの夏の続きを、今
「それから、トランペットの3番」
カリンが、びくっ、と反応した。
「6小節目と7小節目、間違ってるぞ。『ド』の音に入るのは6小節目の終わりじゃなく、7小節目の1拍目だ」
そう言われて怯えているのはカリンだけではない。
私も、恐怖心を感じていた。
そして、アカリ先輩でさえも怯えたような表情をしていた。
────1stならともかく、3rdの比較的目立たない所の間違いにも気づくなんて。
私だったら絶対分からないだろう。
恐怖だけでなく、畏敬の念も感じた。
「それじゃあ、ピッチに気を付けて、もう1回」
再び先生が指揮棒を構える。
────パーン、パーン、タタタッ!
先生に言われたことを意識した瞬間、はっと気が付いた。
音がさっきよりも、いや、今までの私たちよりも、だいぶ変わったような気がした。
練習番号Aまで吹き終えた時には、昨日までの自分には決して味わうことはできなかったであろう満足感があった。
寺沢先生の指導はかなり厳しそうだけど────でも、私たちは必ず良い方向へと変われる、そんな気がした。
たとえ厳しくても、私はこの指導について行きたい────
そう思い始めた。
これから、この吹奏楽部はどんな方向へと向かっていくのか。
今はまだ想像でしかないけど────
いつか必ず、これまでに無いほど良い方向へと向かっていく。
────そんな予感がした。