あの夏の続きを、今
そう言ってから私は、ユイちゃんとエリカちゃんにトランペットを渡す。
「ここにマウスピースを差して、そして、持ち方は……ここに薬指を引っ掛けて……あ、人差し指はそこじゃなくて、ここ……右手は、小指をここに引っ掛けて……そうそう。じゃあ、さっきと同じ要領で、早速吹いてみよう」
私がそう言うと、ユイちゃんとエリカちゃんは、恐る恐るトランペットを吹き始めた。
────ぷぅーーーーーっ。
「あ、すごい!ユイちゃんさすがだね!綺麗な音が出てる!
エリカちゃんも!一発で出たね!すごい!」
そうやって1年生に声をかけていくうちに、ふと、自分の心の中から少しずつ緊張が消えていっているのに気が付いた。
そして、楽しみに変わり始めていた。
自分が教えたことを、後輩がこなしてくれるって、なんだか嬉しい。
先輩になるって、こういうことなんだ。
なんだかすごく、ワクワクする。
「じゃあ、次は、音階を吹いてみよっか。
今、2人が出したのが、『ド』の音。
で、指をこうして…1番ピストンと3番ピストンを押すと、『レ』になるんだよ」
私がそう言ってから「レ」の音を吹くと、ユイちゃんとエリカちゃんも「レ」の音を吹いた。
いかにも初心者という感じの音だけど、それでも1年前の自分よりは、2人とも上手くできている気がする。
「そうそう。じゃあ、次は、『ミ』。1番と2番を押して……」
私が教えると、今度は2人とも「ミ」の音を吹いた。
「そうそう!2人とも、上手だね!もっと、吹いてみていいよ!」
私がそう言う横で、2人は嬉しそうに、ド、レ、ミ、と何度も繰り返し音を出している。
後輩に教えるって、こんな感じなんだ。
後輩が初めて音を出せるようになる瞬間を見るのが、なんだかとても嬉しい。
想像していたよりも、後輩との関わりって、ずっと楽しそうだ。