あの夏の続きを、今


もう二度と聴けなくなってしまうと知っていたら、先輩が引退する前に、もっともっと意識して、あの音を心の中に残しておいたのに────


…なんて後悔しても、もう、無駄なのだ。


先輩が引退する前に、先輩への恋心に気づいていれば、それもできただろう。


けれど、あの時は、先輩への気持ちには気づいていなかったから。


まさか自分が先輩に恋をするなんて、これっぽっちも思わなかったから。


────いや、本当は、薄々気づいていたかもしれない。


けれど、ハルトの存在を理由に、それを完全に抑え込んでしまってたから。


たとえタイムスリップして過去の自分に何かアドバイスしたって、信じてはくれないだろう。


私はこの混乱した気持ちを鎮めようと、必要以上に大きく息を吸って、基礎練を続ける。


松本先輩がユーフォを吹いている所なんて、全く想像がつかなかった。


松本先輩とトランペットは、もう、私の中で強く結び付いて、切り離せないものになっていたから。


けれど、違う楽器になっても「めっちゃ上手い」と言われる所は、やっぱり松本先輩らしいな、と思った。


松本先輩がトランペットではなくユーフォを吹いている様子がどんな感じなのか、なんだか気になってきた。


早く、定演に行きたい。そして、この目で確かめたい。


新たな松本先輩の姿を。

< 218 / 467 >

この作品をシェア

pagetop