あの夏の続きを、今
席に座ると、どくん、どくん、という胸の高鳴りが、ホール中に響いてしまいそうなほどはっきりと聞こえてくる。


辺りを見回してみると、私たちの座っている場所の少し前に、アカリ先輩とその両親らしき人の姿が見えた。たぶん、シオリ先輩を見に来たのだろう。


それ以外には私の知っている人の姿は見えない。


まだ開演までかなり時間があるので、私はさっき貰ったパンフレットを開いて、中身を読んだ。


最初のページに書いてある部長挨拶にざっと目を通す。



「……えっ!?」



「どうしたの、志帆?」

「ほら…ここ見て」


私はパンフレットの中の、部長挨拶の一部分を指差して、リサにも見せる。


『────3年生は本日の演奏でこの吹奏楽部を引退することとなりますが…………』


「これ……3年生はもう、今日で引退なんだよね…ってことは、3年生、コンクール出ないのーーーーー!?」

「この解釈だと…そうなるね」

「ええええーーーー!?」


私は頭を抱えた。


「それがどうかしたの?」とリサが聞いてくる。


「…私が高1になったら、松本先輩高3じゃん。だから、東神の吹部に入れば、また一緒に演奏できるって思ってた…

でも、3年生がこの定演で引退しちゃうんだったら、ほんのちょびっとしか一緒にいられなくなっちゃうから……なんかショック」

「なるほどね……6月で引退か……大学受験って、よっぽど厳しいのかなー」

「そうだね…」


私はずっと、松本先輩に告白するのは私が高校生になってから、というつもりでいた。


けれど、3年生が6月で引退しなければいけないほど、大学受験というものが厳しいのであれば────


この計画は、考え直さなければいけない、ということになる。


先輩が高3になってしまえば、「想いを伝えたいけど相手は受験生」という、去年の最大の困難を繰り返してしまうだけだ……


私ってなんて馬鹿だったんだろう。自分で自分が情けなくなる。
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