あの夏の続きを、今
パート分けが終わった後、1年生はそれぞれのパートの先輩のもとへと向かった。
もう1人、トランペットの担当になった、背の低い1年生の女子が、目をキラキラ輝かせながら、早速話しかけてきた。
「ねえねえ、名前なんていうの~?何組~?」
「私は、B組の広野 志帆。志帆って呼んで」
「カリンはね、山内 花鈴(やまうち かりん)って言うの!C組だよ!よろしくね!」
自分のことを「カリン」と呼んだ、幼く可愛らしい見た目と声のその子は、そう言って私の手を握った。
なんだか、一緒にいるだけで、自然と笑顔になれそうな人だ。
それから、私とカリンは、トランペットパートの先輩2人に向けて、自己紹介をした。1人はもちろん、例のあの眼鏡の────松本先輩だ。
「1年B組の、広野志帆です」
「1年C組の、山内花鈴です」
「広野さんに山内さん…二人とも、これからよろしくね!」
松本先輩は優しい笑顔で私たちにそう言った。
下がった目尻、頬に浮かぶえくぼ。松本先輩の笑顔って、なんだか素敵だ。
そして、先輩たちも自己紹介をする。
「パートリーダーの、3年D組、松本 蒼汰(まつもと そうた)です」と、松本先輩。
「2年A組の、前田 朱里(まえだ あかり)です」と言ったのは、先週のオーディションの時にいた、女子の先輩だ。
「松本先輩、前田先輩、よろしくお願いします!」
私がそう言うと、前田先輩は「あはは、志帆ちゃんもカリンちゃんも、そんな堅くならずに、名前で呼べばいいのにー」と言う。
「じゃあ……アカリ先輩?」と言ったのはカリンだ。
それを聞いて満足そうに頷く前田先輩……ではなく、アカリ先輩の横で私は、「じゃあ、松本先輩も……蒼汰先輩、って呼べばいいんですか?」と聞く。
すると松本先輩は、「いやいや、僕はそんな、女子に名前を呼ばれるなんて照れくさいから、名字でいいよ」と遠慮がちに言う。
「そういえば、松本先輩って、女子が相手だと頑なに名前で呼んだり呼ばせたりしませんよね。一部例外もありましたけど……」と割り込んできたのはアカリ先輩だ。
「まあ、あの人はなぜか名前で呼ばないと怒るからね……」
そう答える松本先輩の顔が、一瞬曇ったように見えたが、たった一度の瞬きの後にはもう、いつもの笑顔に戻っていた。