あの夏の続きを、今
この部では、新曲の楽譜が届いたとき、まずパートリーダーが寺沢先生に、パートごとに必要な枚数を伝える。
寺沢先生は、その「必要な枚数」のきっちり2倍────それ以上でもそれ以下でもない────の枚数の楽譜をコピーして、パートリーダーに渡すことになっている。
なぜ2倍の枚数をコピーするのかというと、合奏を重ねていく中で、途中でセクションを替わってもらった方がいい部分が出てきたり、一部分だけ別のパートの譜面を吹いてもらったりすることがよくあるからだ。
今回届いた楽譜は、2曲とも、1st、2nd、3rdがそれぞれ4枚ずつある。
ということは、どのセクションも2人ずつということになる。
それはつまり────アカリ先輩の他に、私かカリン、どちらかが1stを吹くことになるということだ。
私とカリンの間に、妙な緊張感が走る。
「この曲、どっちが1stになるのかな」と私が言うと、カリンは「絶対志帆でしょ!カリン、もう2つも1stもらってるもん!」と明るい調子で言う。
「じゃあ、この2曲は、どっちも私が1stを吹けば、数が合うよね」
私はそう答えながらも、心の中には拭いきれない不安があった。
確かにトランペットパートの暗黙のルールに従うなら、2曲とも必然的に私が1stということになる。
だけど────私は、アカリ先輩が私を1stにはしてくれないような予感がしていた。
嫌な予感だ。
────以前、アカリ先輩がこの「暗黙のルール」を無視して、私に2ndを渡したが、あの後、アカリ先輩は1年生3人を呼び集めて、同じ楽譜を配っていた。
その時、「3人のうち誰か1人2ndをやってもらおうと思ってるんだけど、誰が2ndやりたい?」と聞いていたのだ。
それぞれのメンバーの吹くセクションの数を調整する必要がない時は、本人たちの意思を尊重して、話し合ってセクションを決める、というのも、暗黙のルールとなっている。
1年生に対しては、この「暗黙のルール」を守っていたのだ。
なのに、2年生には────
私は、悪い予感しかしなかった。