あの夏の続きを、今


移動の時間になり、列が動き出した。


ロビーの人混みの中を通り抜けて、舞台裏に入ると、胸が高鳴り出す。


あのステージに立つ時が、近づいてきているんだ。


何回もこの場所での演奏を重ねてきたからか、この会場のステージや客席、舞台裏の風景を想像したり見たりするだけで、なんだかワクワクしてくる。


大勢の観客に、私たちの音を届けること。それは私にとって、大きな楽しみになっていた。


舞台裏を通り抜けて、楽屋エリアの狭い通路へ。


薄暗い舞台裏から、一面白い壁ばかりの静かなこの場所に来ると、少しずつ緊張が押し寄せてくる。


それでも、去年に比べたら、ずっと落ち着いていた。


経験を積んできているから、というのもあるだろうし、寺沢先生の指導のおかげで私たちの演奏は大幅に良くなり、自信がついているから、というのもあるだろう。


チューニング室である楽屋に入り、音出しをする。


相変わらず、私とアカリ先輩を中心に、私たちの間に妙な暗い空気が漂い続けていたが、それぞれが音を出し始めると、それもなくなった。


演奏に対しては、皆、本気なのだ。


それぞれの役目を果たすことにだけ、集中しているのだ。


それから、「せんばやま変奏曲」の中で特に難しい、バージョン3、バージョン4、バージョン6、バージョン8を一通り合奏する。


最後に、寺沢先生は部員たち全員の顔を見回して、言った。


「君たちはもう十分練習を重ねてきて、ここまで来たんだから、もう大丈夫。怖がらないで、自信を持って、本番に挑みなさい」


そして、私たちはチューニング室を出て、再び薄暗い舞台裏へとやって来た。
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