あの夏の続きを、今

輝く毎日





【2014年 5月上旬】





「うわ、やばいっ!遅れるっ!」


吹奏楽部に入部してから、一週間ほど経った。


今日は、初めての朝練の日────なんだけど、早速寝坊してしまった。


急いで制服に着替えて、自転車で学校へと向かう。


ギリギリセーフで音楽室にたどり着いた私は、出欠の後、学校の楽器を出してきて、トランペットパートの人たちとともに練習を始めた。


ところどころラッカーが剥がれている、ボロボロの学校の楽器を持って、先輩たちのいる所に集まる。


松本先輩が私、アカリ先輩がカリンについて、練習が始まる。


私とカリンは、まだ「ド」から「ファ」までの音が出るようになったばかり。


「それじゃ、今日は、『ソ』の音を教えるよー」と松本先輩。


私は視線をぐっと上げて、松本先輩のほうを見る。


背の低い私は、こうやって意識して視線を上げなければ、背の高い松本先輩の顔を見ることができない。


「まず運指なんだけど、『ド』と同じ、開放……何も押さない状態だよ」


………え、「ド」と同じ運指で、どうやって「ソ」を出すの?


私だけでなくカリンも、きっとそう思ったに違いない。


「トランペットとか金管楽器は、『倍音』って仕組みがあるんだけど、同じ運指でも、息のスピードを変えることで違う音が出せるんだよ」


そうなんだ………先輩って、物知りなんだな……って、私より2年も長くトランペットをやってきてるんだから当然か。


「それじゃ、お手本。この音程をイメージしながら、吹いてみて」


そう言って松本先輩は、「ソ」の音を吹く。


決して揺るがない、しっかりと、安定した音。


私は入部してから毎日、松本先輩の音を聞いているけれど、先輩のトランペットは、この吹奏楽部の中で群を抜いて上手い。


明るく輝く、聴く人を魅了するような素晴らしい音を奏でる。そして、決して音を外すことはない。
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