あの夏の続きを、今
後輩たちも満足してくれているみたいで、良かった────そう思いながら、私は1年前の今日の松本先輩のことを思い出していた。
────“そんなことないよ!広野さんだって、めちゃくちゃ上手かったんだから!ほら、元気出して!”
あの時言われた言葉は、今も胸に焼き付いている。
松本先輩は、今どうしているのだろうか。
東神高校の出る高校A部門は確か今から数日後だったと思うから、今はコンクール直前の忙しい時期だろう。
となると、私たちの演奏を見に行ったりする余裕はないはずだよな、と思いながら、楽器置き場へと戻る。
松本先輩………先輩は、今、何を思ってユーフォを吹いているんですか?
私は、先輩を想ってトランペットを吹いています。
先輩は知っていますか?
私が、今もこうして、先輩のために頑張っていることを────
楽器置き場に着いてから、私は隣にいるカリンとアカリ先輩の方に視線を向けた。
相変わらずアカリ先輩はカリンと仲良く喋っているし、3人の1年生にも話しかけたりしているが、とうとう先輩は私に話しかけてくることはなかった。
────仕方ないよ。私は嫌われてるんだから。
一時は忘れていた投げやりな感情が、再び蘇ってくる。
────もう、今日でアカリ先輩は引退なんだから。今日でこの不満も、終わりなんだから。
────松本先輩と違って、後輩を思いやれない先輩は、とっとと引退してしまえばいいんだから。
────もう、これで、誰にも邪魔されることなく、私の目指す演奏を目指せるんだから。
私は一人で黙々と、楽器を片付ける。