あの夏の続きを、今
3年生が、一人また一人と、「ありがとうございました!」と言いながら音楽室を出ていく。
その中には、涙を流している人も多くいる。
涙なんて演技でも流せそうにない私は、固まった表情のまま、ゆっくりと立ち上がり、なんとなく東側の窓の外を見た。
そこから見える校舎の西棟の向こうの空には────今にも雨を降らせそうな、真っ黒い雲が立ち込めている。
ゴロゴロゴロ……と、雷のような音も聞こえてくる。
今すぐにでも夕立が来そうな雰囲気だ。
私もそろそろ帰ろう。そう思い、歩き出したとき、「志帆、志帆〜」と後ろから呼び止められた。
カリンだった。
「あのね、明日からカリン、パートリーダーになるじゃん、あ、明日からしばらくお盆休みなんだった……とにかく、カリン、次の部活からもうパートリーダーじゃん!
でもね、カリンには、パートリーダーの仕事とか、全然できる自信ないんだ……
だから、これからカリンたちの代になったら、志帆にもいろいろ手伝ってほしいの!特に、パート練習でのアドバイスとか、ね。
っていうか、もう、いっそのこと、カリンと志帆、2人でパートリーダーって感じにしたい!カリン一人じゃとてもこんな責任背負えないよ!
だから……これから志帆に助けてもらうことがすっごく多くなると思うし、いろいろ迷惑もかけると思う……大丈夫かな?」
心底不安そうな表情でそう語ったカリンに、私は答えた。
「大丈夫だよ、カリン!私は元々パートリーダーがやりたかったし、後輩への指導だってやる気満々だったから!
できる範囲でだけど、私も頑張るし、カリンが困ってたら手伝うよ」
カリンは、「ありがとう!じゃあ、これからもっともっと、一緒に頑張ろうね!カリン、志帆だけが頼りだから!じゃあ、バイバイ!」と言って、帰っていった。
カリンが音楽室を出てから、私は再び窓の外を見た。
黒い雲と雷の音が、どんどんこちらに近づいてくる。
夕立が来る前に、早く帰ろう。そう思い、私も音楽室を出て、自転車置き場へと向かう。