あの夏の続きを、今
カリンは私の方に身を乗り出して、そこを指差しながら何か言おうとした。
だが、それと同時に寺沢先生の「よし、じゃあ全員揃ったみたいだから、課題曲を順番に聴いてくぞー」という声が聞こえてきたので、カリンは「なんでもない」と言って、前を向いて座った。
寺沢先生は黒板の字を指差しながら続ける。
「中学校A部門では、5曲ある課題曲のうち、I〜IVまでの4曲から1曲選んで演奏することになっているから、今から曲を聴いて、どれをやるのがいいと思うか、皆で話し合ってくれるかな。楽譜も参考にしてな。
じゃあ、早速スカイブルーから流すぞ」
そう言って、先生はCDプレイヤーのボタンを押した。
────タカタッタカタッタカタッタッ、パーンパパッパッパーーーン!
早速スピーカーから、「マーチ・スカイブルー・ドリーム」のイントロの明るいファンファーレが流れ出す。
私は手元の楽譜を眺めながら、曲を聴く。
明るく爽やかで、シンプルな構造の、典型的な課題曲のマーチらしいマーチだ。
いい曲だな、と単純に思った。
夏のコンクールの時期の、透き通るような青空、爽やかな風が、頭の中に鮮明に浮かび上がってくる。
楽譜を見ても、特別難しい所はなさそうだし、練習すれば普通にできるようになるだろう。
隣にいるカリンが広げている1stの楽譜を横目で見ると、1stの最高音はどうやら、高い「ラ」のようだ。
でも、このぐらいなら、カリンは出せるだろう。カリンは私とは正反対の、高音向きのトランペッターだから。
カリンも自分の役割を自覚してきたのか、前ほど1stやパートリーダーの仕事を嫌がらなくなって、今はどんどん高い音を伸ばしていっているし。