あの夏の続きを、今
薄暗い道をしばらく進んでいくと、少し遠くの方に見える赤信号の交差点の手前に、自転車に乗った男の人が止まっているのが見えた。
何やら見覚えのある後ろ姿────
「……あっ!!!」
思わず声が出てしまいそうになった。
だって、その人は────松本先輩だったから。
考えるより先に身体が動き出した。
自転車を漕ぐ足に、ぐっと力が入る。
信号よ、変わるな、変わるな、青になるな────
そう心の中で叫びながら、私は全速力で自転車を漕いで、松本先輩へと近づいていく。
あと少し、あと少し、あと少し────
「…………せんぱいっ!」
私のその声に反応して松本先輩が振り向くのと、信号が赤から青に変わるのとが、ほぼ同時だった。
「あっ、お久しぶり」
そう言って松本先輩は、私の方を向いて、優しく微笑む。
ドクンッ。まるで、私の心臓はその笑顔に撃ち抜かれてしまったみたいだ。
そのまま私と松本先輩は、前みたいにふたり並んで進んでいく。
何を話そうか迷っていると、先に先輩のほうが口を開いた。
「この前はクリスマスコンサート来てくれて、ありがとうね。
元J中のトランペットパートでわざわざ見に来てくれる人なんて広野さんぐらいだから、また次も、見に来てくれたら嬉しいな」
「ありがとうございます!もちろん、行きますよ!先輩のさらなる活躍が見たいので!」
松本先輩の優しげな顔を見たり、声を聞いたりするだけで、心の底からなんだか温かくなってくる。
やっぱり、松本先輩という存在は、私にとって特別だ。
だから、私も松本先輩にとって、特別な存在でありたい────
そのために、私はトランペットを頑張るんだ。
そして、コンクールを頑張るんだ。
最優秀賞は取れたけど、そこで満足することなく、さらなる高みを目指して。
松本先輩に誇れるような音を届けたいから。
松本先輩に、最高の笑顔を私に向けてもらいたいから────