あの夏の続きを、今

決断の知らせ





【2016年 2月下旬】





─────おかしい。明らかに様子がおかしい。





今、私たち吹奏楽部は、明日の本番─────「バンドフェスティバル」という、吹奏楽祭と似たようなイベントのための練習をしている。


だが、部活のために音楽室に来てから、どうもカリンの様子がおかしい気がするのだ。


出欠の時間になる前からカリンは明日演奏する曲を吹いているのだが、いつものように音に明るさが感じられない。


それに、変なところでフレーズが途切れてしまうし、ブレスを取る時もなんだか苦しそうだ。


─────体調が悪いのだろうか?


私は思い切ってカリンに声をかけてみる。


「カリン、なんかさっきからすごく苦しそうだけど、体調でも悪いの?」

「いや、全然大丈夫だよ、ほんとに!」


必死にそう答えるカリンの顔が少し赤くなっていることに、私は気づいた。


「ちょっとカリン、おでこ貸して」

「ん?」


私はカリンの前髪をめくり上げると、その可愛らしいおでこに触れる。


「ええっ!?」


今度は両側の頬にも触れてみる。


─────明らかに熱い。


「ちょっとカリン!ひどい熱!こんなんで部活出ちゃだめだよ!明日本番でしょ!」

「で、でもカリンが休んだら、志帆やみんなに迷惑かけちゃうよ……それに、ソロもあるし……」

「でもじゃなくて」

「だめだよ、カリン、ちゃんと出なきゃ…」


カリンが言い終わらないうちに、いつの間にか私たちの後ろに寺沢先生が立っていた。


「熱があるんだったら、今すぐ帰って休みなさい。本番で無理して倒れられても困る。明日の本番も、体調悪いのならちゃんと休みなさい。健康第一だ」

「……」


寺沢先生に言われて、カリンは黙り込んでしまった。


「あと、広野、万が一のためにソロの練習しときなさい。難しい曲じゃないし、大丈夫だろう」

「はい」


─────明日の本番で演奏する曲は、私とカリンの2人で1stを担当し、カリンがソロを吹くことになっていた。


寺沢先生曰く、もしも明日カリンが来られなかったら、ソロを私が代奏すればそこまで曲にダメージはないだろう、とのことだ。
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