あの夏の続きを、今


────翌日。


今日の本番の会場は、いつものK市民会館とは違う別のホールだ。


私たち部員は朝から音楽室に集まって、練習はせずすぐに楽器を積み込んで出発することになっている。


出欠の時間になるまでの間、私はずっときょろきょろしてカリンを探していたが、一向にカリンは姿を見せない。


皆が揃い、出欠の時間になっても、とうとうカリンはやって来なかった。


────やっぱり、体調は治っていないのだろうか。


一応、昨日のうちにソロは練習しておいたし、難易度も高くないとはいえ、やはりいつも傍にいるカリンがいない状態で迎える本番というのは、不安で心配でたまらない。


結局、カリンは来ないまま、積み込みも終わり、部員たちはバスで会場に向けて出発した。


────カリンの分まで、私がやらなければ。


会場は違えど、流れはいつもの吹奏楽祭やコンクールと同じ。


会場に着いたら、楽器を運んで、必要な物を持って移動する。


チューニング室に着いたところで、ようやく今日最初の音出しだ。


3人の後輩たちとチューニングを合わせてから、カリンが吹くはずだったソロを何度も練習する。


それほど音は高くないし、大丈夫なはずだ。それでも、不安は拭いきれずにいる。


最後に皆でチューニングをしてから、私たちは舞台裏へと向かう。


もう何度も本番は経験してきているのだが、カリンがいない、そして自分はたった1日しか練習していないソロがあるというだけで、初めての本番よりもずっと緊張していた。


うまく息が吸えないし、手も足も震えている。


────それでも、私はカリンの分まで、ここでやらなければいけない。


たくさんのお客さんの前で演奏するのに、相応しいソロを届けなければいけないんだ。
< 301 / 467 >

この作品をシェア

pagetop