あの夏の続きを、今
「何でしょう、話とは」
私が恐る恐る寺沢先生の元に行くと、「ちょっと着いてきなさい」と手招きされた。
そして、私は隣の多目的教室へと連れて来られた。
寺沢先生は、「入って」と言いながら、扉をガラガラと開ける。
私が教室に入ると、その中には、寺沢先生と同じくらいの年齢と思われる、見たことのないスーツ姿の男性が机の前に座っていた。
「そんな堅い話じゃないから。緊張する必要はないぞ。さ、座って」
寺沢先生はそう言うと、椅子を持って来て、その知らない男性の正面に置いた。
何が何だか分からないまま、私はその人の前に座る。
「広野さん、ですね?初めまして、私は浜百合高校吹奏楽部の顧問をしている、木村と申します」
そう言ってその人は、名刺を差し出してきた。
浜百合高校……?
それって、もしかして────
吹奏楽部が超有名な、あの私立高校の……!?
あの、全国大会金賞常連の超強豪校の……!?
あの、浜百合高校…………!?
状況が飲み込めない私を前に、その人────木村先生は話を続ける。
「今日はどうしてJ中学校にお邪魔させて貰ったかというと、広野さんにぜひ、うちの高校の吹奏楽部に来て頂きたいと思ったからです」
「えっ、えっ、私が、浜百合に、ですか!?!?!?」
思わず大きな声を出してしまった。
────浜百合高校。
部活動で多くの輝かしい実績を残していることで有名な、県内の私立高校だ。
中でも吹奏楽部の活躍はは特に際立っていて、吹奏楽コンクールとマーチングコンテストの両方で全国大会金賞の常連となっている。
去年、とある人気テレビ番組の中の「青春!高校生マーチング特集!」というコーナーで浜百合高校の吹奏楽部が取り上げられ、全国的にもより一層その名が知られるようになった。
今や吹奏楽をやっている人なら誰もが一度はその名を耳にしたことのある存在であり、全国大会出場を夢見て浜百合高校に入学する人は非常に多い。